
東映に『北京原人』という原爆があるなら
東宝にはまさに
水爆級の駄作が。
それがこの『幻の湖』。
『七人の侍』など黒沢作品の脚本で知られる
巨匠・橋本忍がメガホンを取り
東宝50周年を記念するれっきとした大作でありながら
公開後1週間で打ち切り、橋本プロを倒産に追い込む。
東宝は長い間「なかったこと」にしていたのですが
某映画秘宝のおかげで超有名作品に。
琵琶湖に住むジョギングが趣味のトルコ嬢が
人気作曲家に飼い犬を殺され、復讐を誓う。
ここに意味不明にからんでくるのが
何故かトルコで働いているアメリカ情報局員・ローザと
「宇宙パルサー」を口にする謎の笛吹きNASA男。
時間軸もねじれにねじれ、戦国時代と現代が交錯。
そしてラストを飾るのが、もはや伝説ともなった
20分に及ぶ主人公と作曲家のマラソン対決。
観客は最初「イカれた主人公だな」と思いながら見ているのですが
時間がたつに従い、徐々に気付き始めます。
イカれているのは監督の脳だということに・・・
私のことをバカ映画好きと思われている方が多いと思いますが
実は私「確信犯のバカ映画」にはまったく興味がありません。
スタッフが本気で傑作を撮ろうとし、あらゆるエネルギーを注いだにも関わらず
どこでどう間違ったのか生まれてしまう超駄作。
それこそが本物のバカ映画
というのが私の持論。
それが映画というジャンルの懐の広さであり、
魅力でもあると思っています。
昨年のクリスマスに浅草東宝のオールナイトで見たのですが
ラストのマラソンシーンでは、客席から応援の声が飛びました。
「がんばれ!」「もう少し!」「負けるな!」
そしてとうとうトルコ嬢が愛犬の仇を追い抜いたときには
場内割れんばかりの拍手(かなり誇張)。
致命的に方向を間違えたとはいえ
作り手の本気が、監督の病的な熱情が
観客の心を(かなりの失笑を交えつつ)動かしたのに違いありません。
バカと天才は紙一重、
傑作と駄作も紙一重であります。
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