「ターセム」って名前覚えてますか。
R.E.Mの『Losing My Religion』のPVとか
ナイキの「神VS悪魔」CM撮ってたあのターセムです。
“馬の輪切りオブジェ”以外、何も思い出せない
『ザ・セル』を撮ったあのターセムです。
デヴィッド・フィンチャーとかスパイク・ジョーンズとかと
どうやらマブダチらしいターセムです。
『ミツバチのささやき』『千と千尋の神隠し』『パンズ・ラビリンス』。
この3本の傑作の興味深い関係を言い当てたのは
現在来日中(笑)の、ご存知町山智浩氏ですが
(詳細を知りたい方は
町山氏のPod Cast でどうぞ)
ハリウッド第7世代(適当)ターセムの監督第二作、『落下の王国』は
この
「妄想する少女」映画の系譜
に新たに連なる一本であります。
舞台は映画産業創世記の頃のロサンゼルス、とある小さな病院。
主人公はルーマニア移民の少女・アレクサンドリア。
リンゴ農園での収穫作業中に樹から落ち、左手を骨折して入院中。
彼女は、やはり入院患者であるスタントマン・ロイと親しくなる。
実はこの男、失恋のために自暴自棄になり
わざと危険なスタントを行い、全身に大怪我を負ったのだった。
ロイはアレクサンドリアに、ある長い作り話を聞かせ始める。
6人の勇者が世界中を駆け巡るその物語に夢中になったアレクサンドリアに
ロイは、話の続きを聞かせるかわりに
薬剤室からモルヒネを取って来るように言う。
体の動かない彼は、それで自殺するつもりだったのだ。
現実が物語にエネルギーを与え
その物語が今度は現実に影響を及ぼす。
少女の中で、虚実の狭間は次第に曖昧なものになっていく…。
「物語の力」をストレートに描くこの構図
作家なら誰でも一度は挑戦してみたくなる、実に魅力的なテーマであります。
語り口のうまさではギジェルモ・デル・トロに一歩譲りますが
この映画、ひとつ面白い試みをしています。
普通の映画ならすぐCGを使ってしまいそうな幻想シーンを
世界24カ国オールロケ
で撮影しているのです。
エッシャーのだまし絵から抜け出したような幾何学模様のイスラム風建築や
頭のおかしい人がデザインしたとしか思えないシュールな空中庭園・・・。
1カ所や2カ所ならともかく
よくもまぁ、こんな不思議な場所をこんなにたくさん見つけてきたものだと
ため息が出ます。
ある意味、下手なハリウッド大作なんかより
遥かに豪華なインディーズ作品なのです。
(監督は撮影に4年の歳月をかけ、私財を投げ打って作ったらしい)
『ザ・セル』に続き、衣装デザインは石岡瑛子が担当。
この人も相変わらずいい仕事してます。
そんな事情ですから、キャストは無名の人ばかり。
しかしこの中に、1人とんでもない逸材が。
主人公の少女を演じる、カティンカ・アンタルーです。
撮影当時5歳だったという彼女
実は、相手役ロイの話を本当だと信じていたらしい。
冒頭で触れた『ミツバチのささやき』のアナ・トレントが
フランケンシュタインを本物だと信じていたという
なかば伝説化した逸話を髣髴とさせます。
…「信じてる」ってことは凄いことですね。
やっぱ演技とは目が違うんですよ目が。
「そんなの反則じゃん!」って意見もあるかもしれませんが
アドリブを多用した演出スタイルともあいまって
この子の素の反応が見ててめちゃめちゃ楽しいんです。
現実と物語がクロスオーバーするお話を
現実と物語を同時に信じている少女が演じる。
他所ではなかなかお目にかかれない代物ですぜ、ダンナ。
すべての少女は物語の中を生きている。
あのぷっくり幼児体型のなかに
世界の秘密が隠されているのです…。
(9月公開)
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